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丁子屋のお着物

シリーズ「丁子屋流の着こなし」江戸小紋 後編

世相的に外出や会食がままならない状況ですが、1月から3月頃までの季節は、袷の江戸小紋が大活躍する時期です。控えめなきもので新年のご挨拶をしたい時、ビジネスシーンで挨拶周りにきものを着用したい時に、気持ちがキュッと引き締まります。また、お茶会や観劇はもちろんのこと、節分や梅見の会、桃の節句、お花見などの行事まで、少し上品なおしゃれをしたい時にお召しいただけます。
丁子屋が「きもの始め」に江戸小紋をおすすめする理由は、前編でも二人の女将からご紹介しました。今回の後編では、きもの好きばかりの丁子屋メンバーから、江戸小紋に対する思いや、プライベートのコーディネートをお伝えします。

ベテラン着付け講師の場合

江戸小紋は限りなく、洋服の感覚に近いきものです。柄がコーディネートを邪魔しないので、無地感覚で着られるのです。ただ、この無地感覚の奥には、矛盾しているようですが、きものならではの醍醐味があります。
江戸小紋の柄は、大きく分けて二種類。一つは、江戸小紋三役と呼ばれる「鮫」「行儀」「角通し」に代表されるもの。いずれも大名家の裃の染め柄からきており、格調が高いとされています。そのほか紀州家の極鮫、武田家の武田菱なども同様です。
もう一つは、これらが江戸期に庶民の間に降りてきて、めざましい展開を遂げ、江戸の粋を代表する柄となりました。各種の縞柄、大根と下し金、ハサミ、傘、宝尽くしなどの用具や日用品、七宝、麻の葉、亀甲、青海波などの吉祥文様、菊、梅、桜、松葉などの植物、狐、千鳥、雀、猫などの動物、雲、霞、雪、雨、月などの自然現象、これら具象のほかに、錐彫りで点をつなげ「家内安全」などの文字を彫ったものなど際限がないのです。いずれも伊勢型紙と呼ばれるミリ単位の極小文様を彫った型紙を使用しています。
柄が小さいので、遠目には無地に見えますから、選ぶ時には色で選ぶのが良いでしょう。洋服みたいで面白くないという方もいる一方で、無地に見えるけれども、実は微細な柄で表現する職人の技術と奥深さが、きもの通の心を捉えるのです。
そんな江戸小紋を活かすも殺すも、すべては帯次第です。帯は慎重に選びましょう。私の一番好きな組み合わせは、唐織の帯と合わせるよそ行きなコーディネートです。この場合は、柄は三役や極細の縞を選びます。遊び心のある柄には、洒落た織の名古屋帯や江戸小紋の柄に合わせた染めの名古屋帯をします。
いずれにしても、帯のセンスによっては、せっかくの手染め江戸小紋もスクリーン印刷に見えてしまいます。逆に、帯がよければ価格帯を抑えたものでも、上質な一枚に見えるから不思議です。また、きものがシンプルな分、帯締めや帯揚げなど小物のチョイスが大事です。
紋は決まり事が多いので、着用の幅を狭めてしまいますので、江戸小紋にはあまりおすすめしていません。格のある訪問着以上か、無地のきものに用いるとよろしいでしょう。

若手着付け講師の場合⑴

私の江戸小紋は、サーモンピンクのような薄紅色の万筋です。紺色と水色の七宝柄の織名古屋帯をしめて、娘の七五三の時に着用しました。歌舞伎を観に行く時は帯を変えます。一枚は、白地の塩瀬に束ね熨斗の刺繍を施した名古屋帯。もう一枚は、墨色地の塩瀬に雪の結晶とサンタの刺繍を施した名古屋帯です。祖母が、紫色地の鮫小紋に、広重の絵が描かれた白い帯を締めて歌舞伎座に足を運んでいたことを、幼心に素敵だなと感じていました。
次に江戸小紋を誂えるとしたら、水色地の大小霰。前述の雪の結晶の帯と合わせてみたいと思っています。大小霰は白い部分が際立つので、気軽に楽しめそうですね。

若手着付け講師の場合⑵

私は御所解文様の付下げの江戸小紋を大切にしています。色はあずき色で、地紋の型染は鮫文様です。さほど華やさはないですが、文様的には礼装風なので、一月中のおめでたい時期にお店で着用しています。ねじり梅文様のレンガ色の縮緬の名古屋帯と合わせて、気負わないけれども、おめでたい雰囲気を出すコーディネートがお気に入りです。
江戸小紋は、かつて男性用として使われていた染め文様を、当時のお洒落な女性が、女性用きものに取り入れたというエピソードを知って、ヨーロッパで初めてパンツスーツを着用したココ・シャネルを思いました。いつでも既成概念を破った先にお洒落があり、格好いいなと思います。

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