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丁子屋連載エッセイ2

■懐古布市に託す思い

懐かしい布をいつまでも大切に

棚に並んだ懐古布(リサイクル)の着物や帯
前回は、現在消費者ときものの間に距離を生んでいる要因の一つ、きものの値段が高いことにふれました。そして、作り手、問屋、小売店が一体となって、良い商品を安く販売するためにできることを考えてみました。
今回は、私の店で行っている「懐古布市」(かいこふいち)を紹介したいと思います。
手ごろな価格できものをお客様に届けることでは、少しは役に立っていると思っています。
月に一回開いている懐古布市(現在は常設)では、お客様から送られてきた古いきものや小物を販売しています。

お客様といっても、そこで販売する品物を送ってこられる方は、店の通常のお客様は少なくて、ほとんど口伝えでいらした方です。
普段にきものを買っていただいているお客様から品物が出ないのは、きものを上手に着ていただいて、不要になっていないからかしら、なんて喜んでいるのですが、どうでしょうか。
買いに来られるお客様は、毎月会社の休みまでとって、楽しみにしてくださる方もいて、嬉しいことです。
懐古布市は今から四年程前(注:本文は98年に上梓)に始めました。
 
きっかけは、「きものは欲しいんだけれど、箪笥がいっぱいになってしまっているの。古い物を処分してくれるところがあればね」といったお客様たちからの冗談めいた声を耳にしたこと、そして私のチャリティバザーの体験でした。
私は以前から、学生時代の友人と、お中元などにいただいても使わない不要品を持ち寄ってバザーを開いていました。
年に一回、店が比較的手すきになる夏の時期に、店の前のスペースに品物を所狭しと並べています。
そこでは「こんなもの、売れないだろうな」と思うものが、結構売れたりするんです。
自分が使い道を見つけられなかった品物を、喜んで買っていかれる姿を目にすると、いらないものだと決めつけないで、物を大事にすることの大切さに気づかされます。
 
「懐古布市」という名前をつけたのは、一枚一枚すべての布に持ち主の思いがこもっている、そうした布をいつまでも大切に扱いたいという願いを込めたからです。
懐古布市のために送られてくる商品は、きものを始め帯揚げ、帯締め、バッグ、草履など実にさまざまです。
なかにはいただき物の白生地を送って来られることがありますが、商売上、これにはちょっと困っています。
先日、浴衣の反物を千五百円で出したら、寝巻きにするといってたくさん買ってくださった方がいらっしゃいましたが・・・。懐古布市はやりがいがある反面、準備も大変です。このような商品が時には、ダンボールでドサッと届きます。
 
商品を一つ一つ検品しながら整理し、伝票に書きとめています。値段は持ち主に決めていただき、その価格に手数料を少し上乗せしています。
店に商品を置く期間は一年間と区切っています。十ヶ月くらい経ったところで、「値段を下げたら売れるかもしれませんけれど、どうしますか」と手紙を出し、一年を過ぎると「処分してもいいですか」と問い合わせます。

仕立て直し、染め直しの楽しさ

きものは留袖、振袖から普段着のウールや木綿まで
懐古布市ファンの方は数人いるのですが、なかには、最初は全くきものには興味がなかった人もいます。
あるお客様は、古いきものを切ってお洋服にしていらっしゃいます。先日もお店に来られて「ここで買ったきものをスリップにしたら、とっても気持ちがよかったわよ」とおっしゃっていました。
そのようなお客様でも、懐古布市に通っている間に、「きものを着たい」ときものに気持ちが傾いてくる方がいらっしゃいます。
着付けを習い始めて、店でやっているきものを買うための積み立てを始めて・・・。
徐々にでも、きものの良さがわかってもらえているかと思うと、嬉しい気持ちでいっぱいです。
 
呉服屋さんのなかには、「はさみを入れてしまうんだったら、古いきものは売らない」という方がいらっしゃると聞きます。
けれどたとえはさみを入れても、布の肌触りの良さや柄の美しさに親しんでいくうちに、だんだんときものに対する愛着が、芽生えてくることもあるのではないでしょうか。
きものとして使うのでなければ売らない、というように幅を狭めてしまうことが、きものを広めることにとって、一番いけないことだと思います。
 
もう一つ、懐古布市の良いところは、きものの特徴である、仕立て直し染め直しをして、長く着ることの素晴らしさを、知っていただくことができるところです。
今は羽織を、あまり着なくなってしまいました。
私は好きですし、店でも売っていますが、そういう状況なので、皆さん、懐古布市に羽織をお出しになります。
懐古布市に羽織が並ぶと、「羽織のままでなくて、帯やコートになりますよ」とお話するようにしています。
そうすれば、「こんなふうに使うことができるんですね」とわかっていただけて、もし箪笥に眠っているきものがあれば、再び日の目を見ることもあるでしょう。
 
仕立て直しや染め直ししてこそ、きものの値打ちが出てきます。
そう考えれば、きものの値段はさして高いものではなくなるのではないでしょうか。
今は、ともすれば“商品を売ったら終わり”という商売になってしまっているような気がします。
染め直すことを考えないで抜けない染料を使ったり、一度染め直すとよれよれになってしまうような生地の商品が出回っています。
しかし、そうした商品を作るより、良い生地で良い染めをして、何度も何度も仕立て直しや染め直しをして、大切に長く着ることの喜びを、お客様にお伝えすることが、きものファンを増やすために、何より必要なことだと思います。
おばあ様からお母様、娘さんへとたとえ姿、形を変えても、思いとともに受け継ぐことができるところが、きものの素晴らしさだと思います。

時間をかけてきものファンをつくる努力を

そこまできものの魅力を知って着こなしている人が、年々少なくなっているのは、本当に残念なことです。
先日も取り引きのある白生地屋さんが、「お茶を嗜まれている方に、今一番売れている生地ですよ」と、ある織りの生地を見せて下さいました。
確かに生地はしっかりしていて、しわにもなりにくいのですが、肌にはなじみません。
きものを着慣れた人だと、肌にしっくりこないのが嫌だな、と感じると思うのですが、今はきものを着るのも、年に一、二回の人が多くなっているので、そうした商品に人気が出るのでしょう。
その話を聞いて、少し寂しい思いがしました。
近頃、私が"どうして?"と驚いたことに、反物から着姿がつかめない、というお客さんの話がありました。
それも一人や二人ではありません。
毎日きもので過ごしていると、当たり前だと思っていることでも、お客様には疑問に感じることがあると知りました。
 
懐古布市では、気に入ったきものをその場ではおっていただけるので、きもの姿だと自分がどのように映るのか、着心地も含めて知ることができる、良い機会にもなっています。
私自身の体験から、親戚から形見分けなどできものをもらっても、趣味が違って結局は箪笥に置いておくことがあります。
たとえ古いきものでも、自分の好みに合ったものを、お金を出して買い求めれば、大切にするでしょうし、きもの(布)も喜んでくれるのではないかと思い、今月も市の準備に励んでいます。
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