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丁子屋連載エッセイ1

■値段が高いこと

ありきたりのことができない現実

呉服屋に生まれ育ち、現在も呉服業に携わっている身にとって、呉服業界の衰退は悲しいことです。そういう状況の中でも、仕事に追われることができるうちのような呉服屋は幸せです。
きもの大好き人間としては、呉服業界全体の向上にお役に立てていただければとの思いで、今、業界人として考えなければならないこと、なすべきことを述べさせていただきます。
 
業界の方には、ありきたりのことと思われるかも知れませんが、そのありきたりのことができないのがこの業界だ、とある問屋さんが話しておられました。
自分のところだけ何とかなれば、という考えでは業界はますます先細りします。業界の川上から川下まで全て見通して、改善していかなければならないことは、多々あると思います。
 
きものに対する一般の人のイメージは、「値段が高い」「現代のライフスタイルに合わない」「自分で着られない」ということです。
この三点をどのように変えていったらいいのか、考えていきたいと思います。

消費者の欲しいものを知る

丁子屋(仮店舗)店内
まず、値段が高いということ。
これは、呉服業界の流通段階での商取引のあり方に問題の一端があるでしょう。
呉服店は、問屋から委託で商品を受け入れ、売れなかったら返品する、売るときには高い掛け率にする、といった半ば慣習化されて行われていることが、きものをますます高価なものに仕立ててしまっているのが現状です。
私は、問屋から商品を仕入れるときは自分の目で確かめ、「これだ」と思うものを買い取っています。
問屋さんにできるだけはやく支払うようにすると、価格で便宜を図っていただけ、消費者にお求めやすい価格でお届けすることができます。はやく買い手がつけば掛け率が少なくても商売は成り立っていくはずです。
良い商品を安く販売するためには、売れるもの、つまり消費者の欲しいものを充分把握し、それに的を絞って作ることが必要です。生産者と小売店を結ぶ問屋に、もっと積極的に小売店の意見を聞いて欲しいものです。
 
お客様は何を求めているのか、いちばんよく知っているのは、私たち小売店だという自負のもとに、日々励んでいるのですから。お客様との距離を密接にとり、要望をできるだけ把握するように、私は毎日心がけております。
取り引き問屋の中でも、メーカー問屋はよく聞いてくれますが、中継ぎ問屋にはそうした姿勢があまり見受けられないのが残念です。

売れる商品を生み出す努力

私自身は、あのきものとても着やすかったとか、ひとに褒められたというお客様の喜びの声を糧に働いております。染めや繍いなど直接加工をしている場合もありますので、そういう職人さんたちも店に来られた折には、できるだけお客様の反応を直に聞いていただくようにしています。
 
飾って眺めるのではなく、身にまとい、まとった人を更に美しく心豊かにするものを作るためにも、問屋さん職人さんが、きものを着た方と直接接触する機会をもっと、いろんな場でつくれないものでしょうか。
私のところでは、着付けを教えています。その着付け教室では、お免状式やお食事会など、皆様がきものを着て出席される集まりをできるだけ多く設けています。その折に撮影しました写真などは、取り引き問屋、染めや刺繍屋さんに極力お見せするようにしています。
 
一般の方が今、何を着て、何を着ないのか、何を好むか、どう着こなしているか、ぜひ見ていただきたいのです。
そして、そこから得たことを、「売れる」商品づくりに生かして欲しいと願っています。
高価な逸品物だけでなく、型染めや織りのきものなどでも、売れると見極めがつけば、多く作って多く売るべきでしょう。そうした考えが業界の将来には必要だと思います。
 

今こそ染織技術者に国の援助を

江戸更紗を染める職人さん
もちろん、どうしても価格を抑えられない商品はあります。たとえば、芭蕉布とか結城紬とか、技術者や材料の不足で、これは高くならざるを得ません。
こうした状況に対しては、一個人や一業界の力では太刀打ちできません。国の援助をもっと促せないものでしょうか。
手工業が日本の産業の取り柄でしたのに、手作業の分野がどんどん作業工程から遠のいてしまったことは、安い賃金の割に仕事がきつい、大変だというのが、大半の理由だと思います。仕立て屋さんにしても、パートに出た方が得という時代です。
国も、物を売る国家というだけではなく、技術を売る国家だということに気づいて、日本の技術者を大切にし、援助を増やしてはくれないでしょうか。
そういう国の援助を促す動きこそ、呉服組合から出てくるべきだと思っております。何々祭りといったものに経費をかけるよりも、業界の基盤であり、日本の伝統文化の一翼を担う根本的な染織技術の保護育成を、呉服関係の組合でこそできないものでしょうか。
 
また、伝統工芸品の中でも、お互いに助け合えるものは、手を携えることも可能ではないかと思っています。
たとえば、撚りの技術で、塩沢とか御召しをひとつに考えて技術提携する、などできないものでしょうか。
それぞれの地方で技術をかこっていたのでは、江戸時代以前の話のようです。その産地や名前こそ違え、同じような技術のものもあると聞きます。
そういうものがまとまって、安い価格の商品が出てくれば、消費者にとって喜ばしく、需要は増え、業界も潤うと思います。
仕事というのは、利益を得るだけではなく感謝をいただくことをも、喜びとしたいものです。感謝をいただくために、良いものを創り売っていけば、道はおのずと開けてくると思います。
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