6.着かたのポイント■補正、襦袢、サイズ

丁子屋は、昼夜毎日、お店の奥のお座敷で、着付け教室を開いています。本業は、呉服の販売ですが、なぜ着付け教室も開くようになったのか、少しお話ししましょう。
ごく簡単に言えば、自分で着物が着られなければ、着物を買うひとにも限りが出てくる、ということです。
もちろんお金がなければ着物は買えませんが、せっかく手に入れても、毎回ひとに着せてもらっていては、着る機会も限られてしまいます。
 
ことに丁子屋は、お茶事の着物や街着・おしゃれ着などの普段着に力を入れていますので、ぜひご自分でお召しになってほしいのです。
自分で気軽に着られれば、着物を着て出かけるチャンスがぐんと増えます。着物に対する関心が深まります。
ということで、着物の着かたについては、丁子屋の着付け教室で、責任を持ってお教えいたします。
 
着姿が美しくて、それでいて着ている本人は苦しくない、という着かたを、合理的な技術でわかりやすく、無駄なくお教えします。
「おいしくご飯がいただける着付け」というのが、丁子屋の着付け教室のモットーですから。
 

補正のこと

現在のバージョンでは白タオル部分も晒に、ガーゼ部分は伸縮性のある長い布地になっています
見た目に美しく、着ていて苦しくない着付けのポイントは、ひとえに補正襦袢に尽きます。
きちんと体に合った補正と襦袢をつけていれば、その上にのる着物や帯が少しぐらいくずれても、心配することはありません。
 
洋服での理想的体型は、出ているところが出ていて、くびれているところがくびれている、という「ひょうたん」や「砂時計」のような形です。
一方、着物の場合は、「お茶筒」のような、ずん胴が理想です。というのも、立体的な洋服と違い、着物や帯は平面の布地だからです。
 
たとえば凸凹(でこぼこ)の円柱に、風呂敷のような平面の布地を巻きつけると、あちこちしわが寄って、きれいに巻くことができません。反対に、上から下までストンとした円柱には、しわが出ず、きっちりと布地が巻けます。
このでこぼこのない円柱、つまりずん胴に体型を近づけるのが、補正の役目です。出ているところは押さえて、くぼんでいるところは埋める。これが、補正の原則です。
 
そこで暑いでしょうが、浴衣の下にも補正を付けてほしいのです。襦袢を着ない浴衣は、はだけやすく、だらしがない姿になりがちです。浴衣を美しく着るのは、着物よりも難しいのです。
 
丁子屋の着付け教室では、オリジナルの補正具を使っています。
「具」といっても素材は、タオルと晒し(さらし)と伸縮性の布地のみ。
これで和装ブラジャー代わりに胸を押さえます。バストが帯の上にのっていると見苦しいですから。それからみぞおち(胸とおなかの間のくぼみ)と、背中とお尻の間のくぼみをタオルで埋めます。
 
ただこの補正具では、鎖骨付近のくぼみを埋めることができません。ここがくぼんでいると、衿の打ち合わせが開いて来たり、衿の脇にしわが寄ったりします。
「鳩胸」が理想なのですが、さしあたっては、鎖骨付近に補正パットが入れられる「ワンピース式下着」を着るか、ウサギの耳のような「補正ブラジャー」を下着の上につけるといいでしょう。
 
 

襦袢のこと

浴衣を除いて、着物の下には襦袢を着ます。
襦袢は、きもの(和装)独特なもので、着物とも違うし、洋服でいう下着とも違います。着物への汚れを防ぐために着ますが、寒い時期には保温の役目もはたします。
標準的な着物の「着る手順」についてお話しします。
一番下が「下着」⇒「補正」⇒「(長)襦袢」⇒「着物」⇒「帯」です。これは、あくまでも基本的なスタイルです。
 
たとえばとても暑い時期には、肌着(肌襦袢ともいう)を省略して、補正をじかに巻き(補正は暑いようですが、汗取りの役目をして、着物や帯に汗が染みだすのを防ぐ)、長襦袢を着る。長襦袢が暑ければ、半襦袢に下半身はステテコ。また、裾よけと肌着がつながった「ワンピース式下着」(お腹まわりがスッキリ)を着て、その上に補正を巻き長襦袢を着る、といった具合です。
 
■襦袢は下着?
分類すれば、襦袢も下着の一種ですが、洋服でいう下着とは一味違うような気がします(外国のひとには「アンダーウエアー」といっています)。
「見えてもあるいは見られてもいいけど、わざわざ見せるのはおかしい」というのが、長襦袢の身上ではないでしょうか。
袖口や振り、あるいは着物の裾からはらりと覗く色と、着物の色との絶妙な調和。
 
もともと日本人は、見えないところでおしゃれをする、という美意識を持っていました。
羽織を脱いだ時に現れる羽(織)裏のおしゃれ、袖が揺れたときに振りからちらりと見える長襦袢の色、着物の裾が乱れて覗く裾まわし(八掛・はっかけとも)の色。
「長襦袢おたく」が出てくるのもうなずけます。
 
■寸法が大切
長襦袢は、単独では着ません。着物の下に着ますから、着物と寸法(サイズ)を合わせることが肝心です。簡単にいえば、長襦袢の袖が着物の袖にきちんと納まっているか、ということです。
「■寸法」のところでまたお話ししますが、着物の袖口から長襦袢の袖口が出ていたり、長襦袢の袖丈(洋服の袖丈とは違います。袂・たもとの上下の長さ)が短くて、着物の振りから飛び出していたら、それはおかしいことです。
 
■着るときの注意
素材は、絹が一般的です。そのほか暑い時期には、麻や海島綿(かいとうめん:最高級の超長綿、シーアイランドコットンとも)など、洗える素材が加わります。また、寒い時期には、モスリンと呼ばれる薄手のウールが出てきます。
一年を通して出まわっているポリエステル素材(『シルック』など)のものは、洗濯機で洗え、アイロンも不要、価格もお手頃なので、着る回数の多い方には、便利な襦袢です。
 
色柄は、礼装になるほど無地に近いものになります。着付け教室でも、無地の白い襦袢を持ってくる生徒がいます。洋服の場合、白い下着でも普段に着用しますが、着物の場合は、留袖や喪服、格のある訪問着など礼装の下にしか着ません。
着物と同じくらいたくさんの色柄がありますので、街着やおしゃれ着には、お好みの襦袢で色合わせを楽しんでください。
着物では派手だったり、可愛らしすぎると思う色柄も、襦袢でなら全身が見えるわけではありませんので、十分着られます。黒っぽい紬の下から、赤い襦袢がちらりと見えるのも、おしゃれなものです。
 
半衿を必ずつけます。
半衿は、衿元の装飾であるとともに、着物の衿が汚れるのを防ぐ役目もします。今は、塩瀬の白の無地が一般的ですが、刺繍の入ったものや小紋柄、色無地などおしゃれな半衿もあります。
半衿にも季節があります。6月から9月までは絽の半衿をつけます。
 
少々専門的になりますが、長襦袢の仕立て方には、「関東仕立て」と「関西仕立て」の2種類があります。「関東仕立て」は衿を裾まで通してつけたもの(ばち衿仕立て)、「関西仕立て」は衿を別につけたもの(広衿仕立て)で、胸元をゆったり合わせることができます。体型や好みもありますが、私たちのまわりでは、「関西仕立て」が多いようです。

サイズのはなし

着物の仕組み(反物一反の展開図)
着物にも帯にも「自分の寸法」というものがあります。というと、当り前じゃないの、とお思いでしょうが、着物を着る方でも案外、寸法(サイズ)に関しては、無頓着な方が多いようです。
長い間(時には今でも)「女並(おんななみ)」という、いわゆる標準寸法が使われてきたためでしょう。女並というのは、洋服でいう5~7号サイズですから、縦にも横にも体格の良くなってきた現代女性には、無理があるのも当然です。
 
背丈だけでなく、手足も長くなってきました。それで困るのが、裄(ゆき)の長さが足りないことです。裄というのは、袖巾と肩巾を足したもので、後ろ衿ぐりの中心から袖口までの長さです(下の部分名称図参照)。女並ですと、1尺6寸5分(約63センチ)しかありませんが、現代の若い女性は、1尺8寸前後(約68センチ)になります。
足りなければ伸ばせばいいじゃない、と思うでしょうが、着物を仕立てる生地(反物)は、織り機の関係で布巾が昔から決まっているのです。9寸5分(約36センチ)~1尺(約38センチ)しかありません(男物やキングサイズのものはもう少し広くなります)。
 
どんなに腕が長くても、この巾の中で収めなければなりません。ところが、洋服の手の甲までかかる長い袖丈の影響でしょうか、最近の方は、むやみと裄を長くする傾向があります。
浴衣ならいざしらず、着物で反物の巾いっぱいに裄をとってしまうと、その上に着る羽織やコートの裄の長さに困ってしまうのです。羽織やコートの袖口から着物の袖口が飛び出していたら、みっともないものです。
 
帯の寸法についても同じことがいえます。呉服屋のなかには、どれもこれも同じ寸法で仕立てているところがありますが、実際に締めたときに困ってしまうことが多いのです。
たとえばそのひとの帯の締め方(結ぶか、ねじるか、たたむか、など)で、最適な長さが決まってきます。また、柔らかい素材の帯ですと、身体に沿ってよく締まりますが、博多帯や夏帯のようにぱきっとした素材ですと、身体から浮いて締まりにくい(だから涼しいのですが)ので、案外帯丈(帯の長さ)が必要になります。
 
着物の袖口から襦袢の袖が覗いている、袂(たもと)の振りから襦袢の袖が飛び出している、おはしょりが出ない、身巾が狭いので衿元が開いてくる、着物の衿と襦袢の衿が沿わない、など。
寸法が合わないということは、着姿が美しくないだけでなく、着にくいのです。
おばあ様やお母様の着物をいただいたら、寸法も確認してみてください。特に初心者の方に、自分のサイズに合わない着物を着て、「着物を着るのって、何て大変なんだろう」と思われては、本当に残念ですから。
<読み方>
掛衿 かけえり
衿の汚れを防ぐために、始めから(地)衿の上に掛けておく衿です。
褄下 つました
体型だけでなく、着た時の腰紐の位置から割り出します。
衽下がり おくみさがり
和裁用語。「落とし」ともいいます。
剣先 けんさき
 ゆき
袖巾と肩巾を足したもの。ただし肩巾は、洋服と違い、片身の巾です。
袖丈 そでたけ
洋服の袖丈は、着物の袖巾にあたります。
身八つ口 みやつぐち
身頃の脇のあき。男物にはありません。
身丈 みたけ
身長とほぼ同寸です。「着丈」という言葉もありますが、こちらは長襦袢や雨ゴート、男物の着物のように、おはしょりのないものの総丈(肩から裾までの長さ)をさします。ということは、身丈のうち、首から上の長さがおはしょり分になる、ということです。
胴裏 どううら
着物は仕立て方からみると、「袷(あわせ)」と「単衣(ひとえ)」に分かれます。裏地をつけて仕立てた着物を袷といいますが、裾回し(八掛・はっかけ)の部分を除いた身頃の裏地を胴裏といいます。裾回しは表地にあわせて色や素材を選びます。
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